ビオチンとは
ビオチンと呼ばれるビタミンは、水溶性ビタミンの1種でビタミンHとも呼ばれています。馬や豚ではビオチンが不足すると蹄がヒビ割れたり、脆くなるところから、飼料中に必ず配合するように飼養標準で定めています。 高生産、高能力を追及する現在の乳牛は、濃厚飼料の多給、フリーストール導入などによって跛行や蹄角質の虚弱に伴う疾病の増加が報告されています。 ビオチンは乳牛にとっても必要な栄養素と位置付けられ、蹄の保護の他肝臓での糖新生や脂肪代謝に関わって、泌乳や乳成分合成を促すとされています。高生産、高能力を追及する現在の乳牛は、濃厚飼料の多給、フリーストール導入などによって跛行や蹄角質の虚弱に伴う疾病の増加が報告されています。 ビオチンに限らずビタミンB群などは、本来はその必要量がルーメンで合成されるのですが、濃厚飼料多給型では合成量が少なくなることが知られています。ある試験によりますと、粗・濃比が50:50になるとビオチンは乳牛の最大合成量の半分になると報告されています。 |
図1 試験管内試験における粗飼料:濃厚飼料比率がルーメン内ビオチン生合成量に与える影響(Da Costa Gomez、1998) |
ビオチンは蹄の角質を守る
角質細胞内部はケラチンと呼ばれる硬い蛋白質で占められ、また角質の細胞と細胞の隙間は接着剤様の物質によって硬く組み合わされています。ビオチンは、角質細胞がケラチン蛋白質を作る際の補酵素として関与しており、かつ角質細胞同士を繋ぐ接着用物質の生成にも補酵素として働くのです。丈夫な角質があれば水分の過剰な浸透を防ぎ、また細菌の侵入を防ぐことができることになります。 オーストラリアで実施された2,700頭以上のホル種搾乳牛を用いた試験結果をご紹介します。全ての乳牛の蹄の状態を調査、記録し、試験群にはビオチン1日20mgを12ヶ月間給与したものです。対照群に比べて蹄の障害が大きく減っていることが解ります。長い期間が必要ですが、ビオチンに治療効果があるということになります。ビオチンを予防的に使用することは疾病治療よりも有効な手段と考えられます。 |
図2 オーストラリアで実施された野外試験結果概要;ビオチンを12ヶ月間投与した場合の蹄障害発生状況 (T.Fitzgerald, B.W.Norton, R.Elliott and O.L. Svendsen,1998) |
ビオチンは乳量、乳質そして繁殖成績を改善する
オーストラリアやアメリカでは、ビオチンを1日20mg給与する試験が多く見受けられます。イタリアでは1日2,6及び10mgを給与して試験を行った結果が報告されていますので、あわせてご紹介しましょう。この程度の添加量であれば、経済的負担も僅かであり皆様方の応用範囲が広くなると考えられます。 まずビオチンがなぜ泌乳量などを増加させるのかを説明しています。これは泌乳を刺激する要因の一つとしてプロピオン酸から合成されるグルコースやラクトースがありますが、このプロピオン酸に始まる代謝経路においてビオチンが補酵素として関与しているのです。もう一つ、ビオチンは疑いもなくルーメン内セルロース分解微生物にとって欠くことのできないビタミンであることです。 試験は、3農場のイタリアンフリージアン種乳牛135頭を3区に分け1区を対照区、2区を2mg給与区、3区を6または10mg給与区とし、分娩後150日間行われました。 図3では3区の6mgまたは10mg給与区の平均値を試験区の結果として表しました。試験区では1日当たり約2kgの乳量が増加しました。 これと同時に試験区では乳質(乳脂肪、乳蛋白質)にも改善の傾向が見られました。また乳中体細胞数は減少しましたが、これは蹄底疼痛の低減によるストレス緩和によるものと考えられました。 繁殖については、試験区は初回発情到来日、種付け回数、受胎までの日数などの指標はいづれも対照区に比べて改善が見られました。 2mg給与区では効果が見られず図3には表示してありません。 これらの3牧場での臨床的異常の主要なものは卵巣脳腫、鈍性発情、無発情、子宮筋層炎、レンサ球菌性乳房炎及び蹄底潰瘍でした。試験3区ではこれらの疾病の発生率は60〜70%減少しました。 |
図3 イタリアン・フリージアン牛の泌乳量に対するビオチン給与の影響 (Bonomiら、1996) |