産後起立不能の原因は、血中Ca濃度の低下によって起こる後肢の虚血性麻痺が主因と考えられています。血中のCa濃度は、血液100mL中9〜11mgという狭い範囲でコントロールされており、7.4mg/100mL以下の値を低Ca血症と呼んでいます。分娩に伴って一過性に現れる生理的な低Ca血症が進行し5mg/100mL以下にまで低下すると、細胞内のカルシウムイオンに異常をきたし、全身の弛緩、意識障害、循環不全などの障害を引き起こします。しかし、個体によってはここまで低下しない場合でも筋肉の弛緩及び興奮が起こって起立不能が現れることがあります。もし、乳頭口の括約筋が弛緩したときには、細菌類が乳房内へたやすく侵入して、乳房炎感染の引き金となるでしょう。
通常、乳牛の総血液中には3g程度のCaしか含まれていませんが、初乳2〜3Kgを生産するためには5〜9gのCaが流出します。Caの流出に対応して消化管からの流入が活発に行われますし、流出量が多すぎるときには牛乳や尿中への排出を調整したりする機能はありますが、この急激なCa流出量に対して、消化管からのCa吸収、骨蓄積分からの補給が間にあわず低Ca血症が現れることになります。 従って、殆ど全ての乳牛は、分娩後は低Ca血症に陥っていると考えて、できる限りの処置を講ずる必要があります。 このCa濃度の低下の原因の中で最も重要なものは、初乳への急速なCa流出(図2)と消化管からのCa流入に制限があることです(図3)。乳牛は加齢とともに消化管からのCa吸収能が低下するので、産次が進むにつれて低Ca血症が多発する傾向があります。 |
図1 分娩性低カルシウム血症における血中Ca濃度の推移 (家畜共済の診療指針) 図2 分娩後の乳牛におれるCa排泄量の動態 (家畜共済の診療指針) 図3 分娩後の乳牛におけるCa流入量の動態 (家畜共済の診療指針) |
表1 乳牛の血中カルシウムレベルと健康状態との関連 |
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血中カルシウムレベル |
健康状態への関与 |
9〜11mg/100ml |
過剰域 |
9mg/100ml以下 |
正常範囲 |
9mg/100ml以下 |
欠乏域 |
6mg/100ml以下 |
起立不能発生域 |