ニッサン情報 第21号
分娩後の起立不能は絶対に起こしてはならない(1)


は じ め に

 分娩から泌乳初期にかけて、乳牛は最も過酷な条件下におかれています。分娩直前から直後にかけて乳牛の血中ビタミンA濃度とカルシウム濃度は一時的に極端に低くなることはよく知られています。
 分娩後に発生する低カルシウム血症はいろいろの疾病の原因となり、特に極端な低カルシウム血症によって起こる産後起立不能は一旦発生すると病状が複雑化して難治のものも多く、廃用にいたる確率が高い疾病であります。 産後の疾病の中で起立不能症の占める割合は20数%に及んでいるといわれ、そのためこれの予防対策は酪農経営中の重要な課題の一つとなっています。


産後起立不能症の原因

 産後起立不能の原因は、血中Ca濃度の低下によって起こる後肢の虚血性麻痺が主因と考えられています。血中のCa濃度は、血液100mL中9〜11mgという狭い範囲でコントロールされており、7.4mg/100mL以下の値を低Ca血症と呼んでいます。分娩に伴って一過性に現れる生理的な低Ca血症が進行し5mg/100mL以下にまで低下すると、細胞内のカルシウムイオンに異常をきたし、全身の弛緩、意識障害、循環不全などの障害を引き起こします。しかし、個体によってはここまで低下しない場合でも筋肉の弛緩及び興奮が起こって起立不能が現れることがあります。もし、乳頭口の括約筋が弛緩したときには、細菌類が乳房内へたやすく侵入して、乳房炎感染の引き金となるでしょう。

 通常、乳牛の総血液中には3g程度のCaしか含まれていませんが、初乳2〜3Kgを生産するためには5〜9gのCaが流出します。Caの流出に対応して消化管からの流入が活発に行われますし、流出量が多すぎるときには牛乳や尿中への排出を調整したりする機能はありますが、この急激なCa流出量に対して、消化管からのCa吸収、骨蓄積分からの補給が間にあわず低Ca血症が現れることになります。

 従って、殆ど全ての乳牛は、分娩後は低Ca血症に陥っていると考えて、できる限りの処置を講ずる必要があります。

 このCa濃度の低下の原因の中で最も重要なものは、初乳への急速なCa流出(図2)と消化管からのCa流入に制限があることです(図3)。乳牛は加齢とともに消化管からのCa吸収能が低下するので、産次が進むにつれて低Ca血症が多発する傾向があります。
図1 分娩性低カルシウム血症における血中Ca濃度の推移

(家畜共済の診療指針)

図2 分娩後の乳牛におれるCa排泄量の動態

(家畜共済の診療指針)

図3 分娩後の乳牛におけるCa流入量の動態

(家畜共済の診療指針)



血中へのカルシウム補給などの仕組み

 これまで述べてきましたように、産後の起立不能症はCaの流出量と流入量のバランスが崩れて発生することが明らかです。ここで血中Ca量のレベルと健康状態を整理してみましょう。

表1 乳牛の血中カルシウムレベルと健康状態との関連
血中カルシウムレベル
健康状態への関与
9〜11mg/100ml
過剰域
9mg/100ml以下
正常範囲
9mg/100ml以下
欠乏域
6mg/100ml以下
起立不能発生域
  1. 血中Ca濃度が過剰のときは、甲状腺ホルモンの作用によって血液中Caの骨への移行が促進されると同時に活性型ビタミンD3の生産を抑制して、腸管からのCa吸収量を少なくします。
    (詳しいメカニズムについては、ニッサン情報第6号の低Ca血症時のホルモン、ビタミンD3の働きをご覧ください)
  2. 欠乏域にあるときは、副甲状腺ホルモンの作用によって骨からのCaの血液中への移行が促進されると同時に腸管からのCa吸収に関わる活性型ビタミンD3の生産を促進します。但し、図3で示しましたように、骨からのCa動因については分娩後1週間くらいはあまり期待できませんから、この時期には吸収性のよいイオン化されたCaを給与して、腸管などからの吸収を期待しなければなりません。
  3. 6mg/100mL以下の起立不能発生域にあるような緊急時には、獣医師の治療を受けたり、吸収性の高いイオン化Caなどの給与が必要となります。

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ニッサン情報 第22号・第23号も続けてお読み下さい。

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