ニッサン情報 第27号
グリセリン飼料「グリセナージ」 (その1)


 乳牛分娩後のケトーシス治療の目的には専らプロピレングリコール(以下PGと略します)が使われています 。 しかし、最近ではグリセリンがこれにとって代わろうとしています。 グリセリンをケトーシスの治療に使用することは1990年代に既に梅津元昌先生がその著書「乳牛の科学」で推奨しています。
 海外諸国でもグリセリンの有効性を証明する報告や論文が発表されています。


PG使用の規制

 ご承知のようにPGには毒性があります 。 米国では既にキャットフードではPG使用は禁じられ、ドッグフードでは使用を自粛するよう勧告されています。 わが国でもセミモイストタイプのドッグフードはPGからグリセリンに切り替わりつつあるといわれています。
 一方家畜を対象とした飼料安全法によれば「PGは、体重が30kg以内の豚を対象とする飼料及び生後3月以内の牛を対象とする飼料以外の飼料には用いてはならない」としています 。 これは子豚・子牛用飼料製造時の粘結剤として用いる以外には使用してはならないという規制なのです。 私どもは「飼料の安全性確保」をモットーに、今後皆様方に周産期用グリセリン飼料を推奨していきたいと考えています。


PGとグリセリンの比較

1. 化学構造的比較

 PGとグリセリンは非常によく似た物質です。 化学的性質としては、PGは親水性と親油性を併せ持っていて水、油とも混合しますが、グリセリンは親水性のみを持ち、水との混合性が強いという特長があります。

PG
グリセリン


2. 栄養的比較

 食品添加物公定書によれば、PG、グリセリンともに経口投与した場合には肝グリコーゲンの増加をもたらすと記されています 。 しかし両者の体内代謝機構には差が見られ、PGにあっては投与量中の20〜25%の非分解部分は尿中に排泄されますが、グリセリンは殆ど肝臓内TCAサイクルで分解され最終産物は二酸化炭素として排泄されます。
 ウシの場合には、PG、グリセリンともルーメン内微生物の攻撃を受けて分解し、プロピオン酸が生成されることになります 。 しかしルーメン内分解を免れて小腸から吸収されたものについてはその後の代謝経路はグリセリンのほうが圧倒的に速いといわれています。
 グリセリンの牛に対するエネルギー価については試験例数はあまり多くはありませんが、Angela Schroderらは高澱粉質飼料に添加した場合は8.3 MJ 、低澱粉質飼料に添加した場合は9.5MJの正味エネルギーをもつことを示しています。 グリセリンはとうもろこしを給与した場合とほぼ同等の価値があることになります。
 専門的になりますが、PGとグリセリンが肝臓内でグルコースに変換されるまでの経過(推定)を示します。

原料名
肝臓内での代謝経路
グリセリン
グリセリン → グリセリン-3-燐酸
→グリセルアルデヒド-3-リン酸 → グルコース
PG
PG → 乳酸 → ピルビン酸 → オキサロ酢酸
→ ホスホエノールピルビン酸 → グリセルアルデヒド-3-リン酸
→ グルコース


3. 1日摂取許容量の比較

 ヒトに対する安全性評価では、PGは1日あたり約1.5g以下と定められていますが、グリセリンについてはその制限はなく、安全性評価でA(1)に分類されています 。 これはPGを30mL/体重kg給与した時、マウス、ラット、ウサギ、馬などで急性毒性が現れるという知見を基にして定められたものです。 一方グリセリンではマウスに対して30,000mg/体重kg給与しても異常が現れなかったと報告されていることによるものです。
 また、化粧品業界でもPGの使用が制限されつつあります。 化粧品としてのPGについては「皮膚、粘膜への毒性溶血性腎肝機能疾患の原因とされている」との注意が呼びかけられ、皮膚の保湿素材としてPG以外の利用が促進されています。
 但し、グリセリン50%液は浣腸剤として利用されるものですから、一度に大量の給与を行うと下痢の原因となる場合がありますので、一回あたり500mL程度を限度としてください。


グリセリン給与

1. 何故グリセリンが使われなかったのか

 PGとグリセリンはその用途がほぼ同じなのです。PGは、1930年代に米国で生産が始まり、食品、医薬品などの溶剤または防腐の目的で使用されるようになり、第2次世界大戦中、グリセリン不足の際にはその代用品として用いられました。 PGとグリセリンはともに着色料、着香料、保存料などの溶媒として使用されていますが、近年は麺類、餃子の皮や生菓子などの保湿性を目的として食品の分野で大きく伸びてきました。厚生省は、PGの食品への過量の添加を警告してきましたが、昭和56年にその使用量を厳しく制限しました。(前述)   PGがヒトや家畜に対して危険と知りながら何故安全なグリセリンに置き換わらなかったのか、理由はただ一つグリセリンの価格がPGよりも高いということだけでした。PGは、飼料安全法により、3ヶ月令以上の牛用飼料に混合してはならないと規制されています。

2. グリセリンの製法

 食の安全という観点から見ると、いま「天然のもの」が求められています。私どもがご紹介するグリセリンは、パーム・ヤシ油由来の天然・純植物由来の素材です。
1.パーム油から石鹸製造時に発生するグリセリン
2.パーム油を加水分解して得られるグリセリン
3.パーム油から脂肪酸メチルエステルを製造する時に副生するグリセリン
 以上で得られたグリセリンを蒸留、精製して得られるものが天然グリセリンなのです。 同じグリセリンでも石油由来のものや合成グリセリンもありますが、私どもはあくまでも「天然」に拘っていきたいと考えています。


グリセリンの性質

1. グリセリンの性状

 グリセリンは無色の粘凋な液体で、臭いがなく、蔗糖の0.5倍の甘味があります。牛に対する嗜好性は良好で飼料に混じて給与することもできます。 グリセリンは強い吸湿性があり、このため密栓して保管することが必要です。

2. グリセリンの細菌抑制効果

 グリセリンは吸湿性が強く、食品中の水分活性値を下げることによって細菌の生育抑制を果たします。 しかし外的要因で水分が混入し、グリセリン濃度が希薄な状態になると、グリセリンは細菌のエネルギー源となって逆に腐敗の原因を招きます。密栓しておけば長期間の保存が可能です。

3. グリセリンの凝固点

 グリセリンは不凍液として冷凍食品などに利用されています。グリセナージはグリセリン85%液を使用しており、この場合の凝固点は−12.5度となっています。凝固しても加温すれば元の状態に戻ります。




→グリセナージ詳細




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